こんにちは。「ORAL PET LIFE」管理人のしゅん(歯科医師)です。
前回の記事では、歯の本数について学びました。
「進化の過程で歯を維持した犬」と「歯を捨てた猫、人間」の違い、面白かったですね。
さて、今回のテーマは、私たち歯科医師にとって宿敵とも言える「歯周病」です。
ギネスにも載る「地球上で最も蔓延している病気」
皆さんは、ギネスブックに認定されている「世界で最も一般に蔓延している感染症」が何かご存知ですか?
風邪ではありません。実は「歯周病(Periodontal Disease)」なんです。
日本厚生労働省の「歯科疾患実態調査(2016年)」でも、成人の約80%が歯周病の所見ありとされており、まさに国民病。いや、世界病。
では、犬や猫はどうなのでしょうか?
調べてみると、衝撃的なデータが出てきました。
「3歳以上の犬の最大80%、猫の70%が歯科疾患にかかっている。」
(AVMA: American Veterinary Medical Association / 米国獣医師会)
これは、日本小動物獣医師会(JSAVA)のデータでも概ね一致しています。
衝撃!「歯垢」が「歯石」になるスピード
私が一番驚いたのは、歯周病の原因となる「歯垢(プラーク)」が、硬い「歯石(Calculus)」に変わるまでのスピードの違いです。
私たち人間の歯科指導では、「歯垢は約2〜3週間で歯石になります。だからその前に歯ブラシで落としましょう」と説明します。
しかし、犬猫の場合はどうでしょう?
・人間:約2〜3週間
・犬 :約3〜5日
・猫 :約7日
なんと、犬は人間の約5倍のスピードで歯石化してしまうのです。
「週末にまとめて歯磨きすればいいや」では、完全に手遅れだということがわかります。
なぜこんなに早いの? 犯人は「pH」
なぜ、こんなにもスピードが違うのか?
その答えは、唾液の性質(pH)の違いにありました。
・人間の唾液:弱酸性〜中性(pH 6.5〜7.0)
・犬の唾液 :アルカリ性(pH 8.0〜9.0)
犬の唾液はアルカリ性が強いため、「石灰化(ミネラル沈着)」が非常に起こりやすいのです。
これには進化論的なメリットもあります。アルカリ性の環境では、虫歯菌(酸を出す菌)が繁殖しにくいため、犬は「虫歯(う蝕)」にはほとんどなりません。
その代わり、代償として「歯石ができやすく、歯周病になりやすい」という宿命を背負っているわけです。
プラークと歯石の違いについて
歯医者で「ここに磨き残し(プラーク)がありますね」や「下の歯の裏側に歯石がありますね」と言われたことがある方もいるのではないでしょうか。
位相差顕微鏡で、「ほら、このウヨウヨ動いているのが細菌です!」と何故か嬉しそうに説明する先生が頭に浮かぶ方もいるでしょう。
・プラーク
これは生きた細菌の塊であり、バイオフィルムと言われます。
この細菌が糖質を代謝し、酸を産生(pH低下)することで、エナメル質(歯の最外側)が溶かされ、これが虫歯の始まりです。
・歯石
これはプラークが唾液中のミネラル(カルシウム・リン酸塩など)で石灰化したものであり、細菌の死骸が含まれているものです。
歯石自体は酸を産生しないため虫歯にはなりませんが、表面が粗造であるため新しいプラークが付きやすく、間接的に虫歯や歯周病を悪化させる要因になります。
プラークであれば、歯ブラシで簡単に除去することが可能です。但し、歯石になってしまうと歯ブラシで除去するのは難しく、歯医者でスケーラーを用いて除去する必要があります。
コラム
どうやって「歯周病」の診断をするの?
人間であれば、プローブと呼ばれる、mm単位で計測できる器具を用い、それを歯周ポケットに挿入して深さや出血の有無を確認します。
当然犬猫にこのようなことは実施不可能なため、視診+臭い+症状で診断を行うようです。症状とは、「食事が遅くなったか」「痛がるか」「出血するか」などです。
これによって精査すべき異常が見つかれば、全身麻酔下に人間と同じくプローブを用いた歯周検査やX線撮影など行い、スケーリング(歯石除去)を行うようです。
エル・ハル・うい・すいは全員口臭あり、歯周炎かもしれない・・・。
全麻かけてプロービングしてみるか(冗談)
次回は今回学んだことを踏まえて、犬猫の歯磨きをどのように実施するべきかを検討してみたいと思います!
※この記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、獣医療の専門的なアドバイスではありません。ペットの口腔ケアや健康問題については、必ず獣医師にご相談ください。
〈参考文献〉
1,厚生労働省:平成28年 歯科疾患実態調査結果の概要
2,AVMA (American Veterinary Medical Association): Periodontal Disease awareness.
3,Gorrel C. Veterinary Dentistry for the General Practitioner. Saunders, 2004.
