【論文から学ぶ】猫の恐怖・不安・ストレスへのアプローチ:最新レビュー

論文から学ぶ

今回読んだ論文「家庭猫における恐怖・不安・ストレスへのアプローチツール:最新情報」

Tools for the Approach of Fear, Anxiety, and Stress in the Domestic Feline: An Update


猫という動物の特性

猫は世界で最も人気のあるコンパニオンアニマルの一つですが、その種特有のニーズに対する理解はまだ十分とは言えません。

  • 猫の最も近い祖先はアフリカヤマネコであり、本来は単独性の動物
  • 犬と比較して家畜化の歴史が短く(約9,500年)、一部の研究者は猫を「完全な家畜」ではなく「馴化された動物」と表現している
  • 単独性の祖先から受け継いだ特性により、多頭飼育では緊張が生じやすいことが指摘されている

猫における恐怖・不安・ストレスの発達

社会化期の重要性

  • 子猫は生後2〜7週間が社会化の重要な時期
  • この時期を過ぎると、未知の物体・人・出来事が恐怖や不安を引き起こす可能性がある
  • 母猫のストレスや気質は子猫に影響を与えることが報告されている
  • 早期離乳された子猫は、成猫になってから行動上の問題を示すリスクが高まることが示唆されている

恐怖・不安・ストレスの定義

  • 恐怖:危険な状況に遭遇したときに生じる高覚醒の感情状態
  • 不安:将来の出来事に対する不確実性から生じる感情的な予期
  • ストレス:外的・内的要因に対する恒常性の不均衡

慢性ストレスは、消化器症状、特発性膀胱炎、高血糖、食欲不振などと関連する可能性が報告されています。


動物病院訪問とストレス

飼い主と猫の両方にとっての課題

調査研究によると:

  • 飼い主の約6割が「猫は動物病院に行くことを嫌っている」と認識
  • 飼い主の約4割が「猫を病院に連れて行くこと自体がストレス」と回答
  • ストレスを理由に病状が明らかになるまで受診を遅らせる傾向が報告されている
  • ある研究では、飼い主の半数以上が自宅を出る前から猫のストレス兆候を認識していた

「学習性無力感」への注意

おとなしく見える猫が実は高いストレス状態にあり、「学習性無力感」を示している場合があることが指摘されています。獣医療従事者はこの状態を認識し、必要に応じて処置を中断して猫の感情状態を評価することが重要とされています。


「Cat Friendly」なアプローチ

国際的なガイドラインと認定プログラム

  • AAFPISFMが「Cat Friendly」ハンドリングガイドラインを公開
  • Fear Freeプログラムが恐怖・不安・ストレスの予防・軽減に特化した教育を提供

実践的な推奨事項

来院前の準備

  • キャリアを日常的に開放し、快適な場所として慣れさせる
  • キャリア内にフェロモン製剤を使用
  • 移動中の吐き気がある場合は制吐薬の投与を検討

待合室と診察室の環境

  • 猫専用の待合スペースを設けるか、他種と時間を分ける
  • キャリアは高い場所に置き、タオルで覆って外部刺激を遮断
  • 薄暗い照明、滑り止めマットやタオルを使用

ハンドリングの原則

  • 猫が自発的にキャリアから出るのを待つ
  • 可能であればキャリア内で診察を行う
  • スクラッフィング(首の後ろをつかむ)は推奨されない
  • 拘束は最小限に

薬理学的ツール

論文では、恐怖・不安・ストレスを軽減するための薬剤が紹介されています。

来院前の投薬

  • ガバペンチン:来院90〜120分前に投与。広く使用されている
  • プレガバリン:2023年にFDAが猫の不安軽減に承認
  • トラゾドン:来院前の投与で効果が報告されている

注意:論文では具体的な用量が紹介されていますが、これらは研究で検討された用量であり、実際の使用は獣医師の判断に基づくべきとされています。

長期的な行動問題への対応

慢性的な行動問題に対しては、セレギリン、クロミプラミン、フルオキセチン、ブスピロンなどの薬剤が紹介されています。論文では、これらの薬剤は行動修正プログラムや環境エンリッチメントと併用することで最も効果的であると強調されています。


補助療法

  • アルファカゾゼピン:抗不安作用が示唆されている
  • L-トリプトファン、L-テアニン:一部の研究で効果が報告されているが、さらなる研究が必要
  • フェロモン療法(フェリウェイなど):家具引っかきや移動時の不安軽減に使用されている

まとめ

  • 猫は本来単独性の動物であり、恐怖・不安・ストレスは最も一般的な行動問題の一つ
  • 社会化期(生後2〜7週間)の経験が成猫の行動に大きく影響する
  • 動物病院訪問は猫と飼い主の双方にとってストレスとなりやすい
  • 「Cat Friendly」や「Fear Free」のアプローチが国際的に推奨されている
  • 薬理学的介入は来院前の投与が効果的とされている
  • 長期的な行動問題には、薬物療法と行動修正・環境エンリッチメントの併用が推奨される

この論文は、猫の恐怖・不安・ストレスに対する包括的なアプローチを提示しており、獣医療従事者だけでなく飼い主にとっても有用な情報源となっています。


論文情報

  • タイトル: Tools for the Approach of Fear, Anxiety, and Stress in the Domestic Feline: An Update
  • 著者: Florencia Barrios, Paul Ruiz, Juan Pablo Damián
  • 掲載誌: Veterinary Medicine International
  • 発表年: 2025
  • DOI: 10.1155/vmi/9109397
  • 論文タイプ: レビュー論文

注意事項

  • この記事は学術論文をもとに作成したものであり、個人の解釈を含みます
  • 研究は英国の一次獣医療データに基づいており、全ての猫に一般化できるわけではありません
  • 個別の症例については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください
  • ブログ著者は獣医療行為を行うものではありません

※本記事はレビュー論文を基にした要約です。原著論文の利用については、出版社(Wiley / Veterinary Medicine International)の規約をご確認ください。


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