【論文から学ぶ】猫の空の旅とストレス管理:マルチモーダルアプローチ

論文から学ぶ

今回読んだ論文「猫の空の旅におけるストレス管理:マルチモーダルアプローチ」

Feline stress management during air travel: A multimodal approach


背景:猫にとっての空の旅

ペットの空の旅は過去10年間で19%増加し、米国だけで毎年200万匹以上のペットや動物が空輸されています。猫は全ペット旅行者の22%を占めると報告されています。

猫の空輸に関する直接的な研究はありませんが、他の動物種での研究と猫のストレスに関する知見から、空の旅は猫にとってストレスフルである可能性が示唆されています。


猫のストレス要因

空の旅において猫が遭遇する主なストレス要因として、以下が挙げられています:

  • 環境の変化、テリトリーからの移動
  • コントロールと予測可能性の欠如
  • 見慣れない人々、匂い、音
  • 大きく予測不能な騒音
  • 拘束による不快感

これらのストレス要因は相加的な効果を持ち、複数のストレス要因が同時に作用すると、単一のストレス要因への反応よりもはるかに大きなストレス反応を引き起こすことが指摘されています(「ストレススタッキング」)。


ストレスの認識

論文では、猫のストレス兆候として以下が紹介されています:

行動学的兆候

  • 緊張した筋肉、身体を丸めた姿勢
  • 動きの減少、フリーズ、隠れる
  • 過覚醒、逃走の試み
  • 発声(うなり、シャー、威嚇音)

生理学的兆候

  • 心拍数、呼吸数の上昇
  • 唾液分泌、震え
  • 嘔吐、下痢

おとなしく見える猫が実は高いストレス状態にあり、**「学習性無力感」**を示している場合があることも指摘されています。


飛行適性の評価

空の旅を検討する際は、猫の身体的・精神的・感情的健康を総合的に評価することが重要とされています。

特に、慢性疾患(心疾患、腎疾患、糖尿病、呼吸器疾患など)を持つ猫や高齢猫では、追加の検査と計画が必要であることが強調されています。


ストレス管理のマルチモーダルアプローチ

論文では、複数の方法を組み合わせた「マルチモーダルアプローチ」が推奨されています。

1. キャリアへの慣らし

ペットのストレスレベルを下げるための最も再現性のある方法の一つとして、事前にキャリアに慣れさせることが挙げられています。

  • キャリアを日常的に家に置き、安全で快適な場所として認識させる
  • 給餌や楽しい経験と関連付ける
  • ポジティブ強化による訓練が、車での移動時のストレス行動を軽減することが示されている

2. 環境と取り扱いの管理

  • キャリアにタオルやブランケットをかけて視覚刺激を遮断
  • 静かな環境を維持し、突然の音を最小限に
  • 到着後は静かな部屋で猫のペースで探索させる

3. 合成フェロモン製品

合成F3フェリン・フェイシャル・フェロモン(Feliway Classic)は、見慣れない環境に置かれた猫の不安を軽減することが報告されています。

  • キャリアには猫を入れる15分前にスプレー
  • 新しい家では、猫が最初に過ごす部屋にディフューザーを設置

4. サプリメント

アルファカゾゼピン、L-テアニンなどのサプリメントが紹介されています。これらは少なくともフライトの2週間前から開始し、到着後も継続することが推奨されています。

注意:用量や使用方法については、必ず獣医師にご相談ください。


抗不安薬について

歴史的背景

歴史的に使用されていた鎮静剤(アセプロマジンなど)は、動物の恐怖や不安の感情状態にほとんど影響を与えず、1990〜1995年の航空輸送中の動物死亡の約半数が鎮静に関連していたことが報告されています。

現代のアプローチ

論文では、**「真の抗不安薬」**として、動物の身体的・感情的機能を比較的正常に保ちながら恐怖を軽減できる薬剤の使用が推奨されています。

  • ガバペンチン:著者らの経験では「ゲームチェンジャー」と評価されている
  • プレガバリン(Bonqat):EU、UK等で猫の輸送に伴う急性不安・恐怖の軽減に承認されている

論文では、飛行前に試験投与を行い、個体ごとの最適用量を決定することが強調されています。猫は「静かに快適だが、覚醒しており、バランスを取り、キャリアの動きに反応できる」状態であるべきとされています。

注意:これらの薬剤の使用については、必ず獣医師にご相談ください。


まとめ

  • 空の旅は猫にとってストレスフルである可能性が高いが、ストレスを軽減・管理する戦略がある
  • マルチモーダルなストレス管理アプローチが重要
  • キャリアへの事前の慣らしは最も再現性のあるストレス軽減方法の一つ
  • 空の旅の前に、身体的・精神的・感情的健康を評価することが推奨されている
  • 歴史的に使用されていた鎮静剤は推奨されず、現代の抗不安薬が適切な選択肢として紹介されている
  • 獣医師とペット輸送業者の協力が最良の結果につながる
  • この論文の推奨事項は、長距離のドライブやフェリー移動にも応用できる

論文情報

  • タイトル: Feline stress management during air travel: A multimodal approach
  • 著者: Katrin Jahn, Theresa DePorter
  • 掲載誌: Journal of Feline Medicine and Surgery
  • 発表年: 2023
  • DOI: 10.1177/1098612X221145521
  • 論文タイプ: レビュー論文

注意事項

  • この記事は学術論文をもとに作成したものであり、個人の解釈を含みます
  • 研究は英国の一次獣医療データに基づいており、全ての猫に一般化できるわけではありません
  • 個別の症例については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください
  • ブログ著者は獣医療行為を行うものではありません

※本記事はレビュー論文を基にした要約です。原著論文の利用については、出版社(SAGE Publications / Journal of Feline Medicine and Surgery)の規約をご確認ください。

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