前回の記事では、「犬猫の歯磨きをどのように実施するべきか」というテーマで、
・毎日歯磨きが理想だが、ストレスは大敵
・系統的脱感作法で徐々に慣らす
・拮抗条件付けで「歯ブラシ=良いこと」に上書きする
・おもちゃで遊ぶことも立派な予防
といったお話をしました。
今回は、その続編として「じゃあ、具体的にどうやって磨けばいいの?」という実践的な方法論を一緒に考えてみましょう。
道具(歯ブラシや歯磨き粉)の選び方は今後の記事に譲るとして、今回は「考え方」と「手順」にフォーカスしていきます。
大前提:完璧を目指さない
まず最初にお伝えしたいのは、「人間の歯磨きレベルを目指さないでください」ということ。
私たち人間は、毎日5〜10分かけて、上下左右すべての歯を丁寧に磨きます。でも、それができるのは
・歯磨きの必要性を理解している
・「口が臭いと思われたくない」「虫歯になりたくない」という動機がある
・自分自身で歯磨きができる
からですよね。
犬猫にはこれが一切ありません。
彼らにとって歯ブラシは無理やり押さえつけられて、「よく分からない棒が口に入ってくる」という意味不明な体験でしかないはずです。
だからこそ、「今日は右上だけ」「今日は前歯だけ」でも大成功なんです。
分割歯磨きのすすめ
人間の歯科治療でも、治療を1回で終わらせず、何回かに分けることがあります。
犬猫にとっては意味不明で怖い歯磨きの時間を少しでも短くするため、一度にすべての歯を磨こうとするのではなく、右上・左下など分けて歯磨きをするのが良いと思います。
・比較的慣れている子・・上顎/下顎 2分割
・初心者・怖がりの子・・右上/左上/右下/左下 4分割
・極度に嫌がる子 ・・6分割もしくは1,2本ずつ
この分割磨きは、犬猫のストレス軽減にも繋がりますが、実は私たち飼い主にとっても非常に大きな意味があります。それは
「1本1本磨く意識をする」
ことです。
これは人でも極めて重要な考え方ですが、これを意識できていない人が実はとても多いです。
歯磨きはあくまで手段であり、歯をきれいにすることが目的ですが、歯を磨くことが目的となってしまっているのです。
1日3回しっかりと磨いているはずなのに、歯医者に行くと「磨き残しが多いですね」と言われる方はまさにこれが原因です。
犬猫の歯磨きを一度にすべて終わらせようとすると、当然暴れ始めるので、すべての歯磨きが中途半端に終わってしまう危険性があります。
これでは頑張った犬猫も飼い主も徒労に終わってしまうので、
「何のために歯磨きをするのか」
「そのためにはどこをどのように磨くべきなのか」
を意識して続けていくことが重要です。
系統的脱感作法:実践ステップ
前回ご紹介した「系統的脱感作法」を、より具体的なステップに落とし込みます。
大原則:「嫌がったら、一歩戻る」
これだけは絶対に守ってください。無理に進めると「感作(余計に嫌がるようになる)」が起きます。
【Week 1-2】触れる練習
ゴール:口周りを触られることに慣れる
1,リラックスしている時に、顔や頬を優しく撫でる
2,嫌がらなければ、唇の端を軽く触る
3,慣れてきたら、唇をめくって歯を見る(1〜2秒)
ポイント:最初から「歯ブラシ」は登場させない
【Week 3-4】歯ブラシとの出会い
ゴール:歯ブラシ=良いこと、と認識させる
1,歯ブラシを見せながら、おやつをあげる
2,歯ブラシの匂いを嗅がせる(舐めてもOK)
3,歯ブラシを口元に近づけ、触れたらおやつ
ポイント:まだ磨きません。「拮抗条件付け」のフェーズです。
【Week 5-6】歯に当てる
ゴール:歯ブラシが歯に触れることを受け入れる
1,唇をめくり、前歯に歯ブラシを当てる(動かさない)
2,1〜2秒キープできたら、おやつ&終了
3,徐々に奥歯にも当ててみる
ポイント:「当てるだけ」。ゴシゴシしない。
【Week 7以降】磨く
ゴール:実際にブラッシングする
1,前歯から始め、小さく円を描くように動かす
2,1ブロック(例:右上)磨けたら、おやつ&終了
3,翌日、別のブロックを磨く
ポイント:1回で全部磨こうとしない。分割作戦です。
各ステップの期間はあくまで目安であり、自分の子に合った期間設定が必要です。
コラム「うちの子たちの現状」
この記事で、教科書的なことを書きましたが、実際にうい・すい・エル・ハルに実践してみると凄く大変です…。
エル・ハル(猫)に関しては、うい・すい(犬)以上に歯を触られることが嫌ならしく、すぐに顔を背け、暴れだします(-_-;)。
猫は犬以上に警戒心が強く、口も小さいため、歯磨きのハードルが段違いです。
この子たちはいまだに抱っこも嫌いで、膝の上に乗ってこないので、根気強く系統的脱感作法を実施していく必要がありそうです。
うい・すいはすでに歯ブラシを使用できる段階まできていますが、後臼歯は見え辛く、また歯ブラシのヘッドも入りにくいため小さい歯ブラシの方が良さそうです。
※この記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、獣医療の専門的なアドバイスではありません。ペットの口腔ケアや健康問題については、必ず獣医師にご相談ください。

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